3.X、Y、Z

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「“散りゆく欠片の豪雨(ピースコール)”」  ピースの周囲に何百、いや何千という数の集約され出来上がった氷柱のように先が尖った破片。それらが一斉に、大地に向けて豪雨のように降り出す。  単純で分かりやすい攻撃だった。余計な力を使わずして、一度に大勢の敵を倒すことができるだろう。だが、ピースがこの魔法を使用したのには、もう一つ理由があった。逃げることができない、破片の豪雨。それから、逃れる術は一つ。 「一つ、分かったことがあるわ」  ピースは無数の破片を降らせながら独り言のようにいう。しかし、それは誰かに語りかけるかのようであった。 「確かに、この世界にあるもの。その全ては、元々あったモノとトコリコの記憶によるもの。だから、フィルムの中で生きるアナタ達は自由にそれを弄ることができる。だけど、私のように外部からやってきた人間が使う力。それだけは、どうすることもできない。フィルムにも、トコリコにも存在しない異物であるから。アナタ達に出来ることは一つ」  無重力空間で浮かびながら、ピースは周囲を見渡していた。やがて、彼女の目はある光景に止まった。無数に降り続ける破片の豪雨。それが、不自然に途切れている場所があった。 「そこね」  ピースが確認するように呟くと、魔銃器の銃口を向けて引鉄を引いた。 「“低速する世界(スローダウン)”」  破片が途切れた場所。そこに向けて、重力を強める魔法の弾を撃ち出す。それが、不自然な場所に命中すると、 「ウグ!」  誰かの苦しむような声が聞こた。それと同時に、何かが押しつぶされるような音がする。 「やっぱりね」  ピースは“ピースコール”の魔法を解除し、降り注ぐ破片を止めた。  重力が高められた場所。その中央に、Z氏はいた。姿を消すことができる不可視の魔法をかけた状態で。 「さっきから、おかしいと思っていたのよ。気配はするけど、姿が見えないから」  ピースは押しつぶされそうになっているアストラの姿を模したZ氏を見ていた。元々、決まった姿はなく。アストラの姿になっていたZ氏。彼、いや彼女は地面に押しつけられたまま、上空に浮かぶピースを睨み付けていた。 「な、なんという方法で私がいる場所を・・・!」  このような方法で敵の位置を探るなど、Z氏には思いつきもしなかった。あれを消さなければ消さないで、負傷していただろう。
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