4.自由を求めて

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「・・・やはり、騙しきれないか。嘘を見抜く、その力、ミステリーやサスペンスの世界では反則だな。役者泣かせもいいところだ」  P博士は現状を理解しているのだろうか。突き付けられたナイフをなんとも思っていないらしく、作業の手を止めようとはしない。 「あとは、出力を・・・。まあ、いいか。そこまでしなくても・・・」 「さっきから、何をしているんだ」 「準備だ。いくら、その人物に成りきれたとしても、それを支える道具がなくては・・・」 「何故、Y氏達を煽ったりした。お前は、始めから三人を止める気はなかった」 「私は別に彼らを煽ったつもりはない」  P博士は造りかけの道具にカバーをかけネジで固定した。大きなスーツケースを真横にしたような道具だ。先端には鏡張りの穴のようなモノが開いている。そして、道具の側面には『クリティカ』と文字が刻まれていた。 「彼の記憶なので、どこまで再現できたか分からないが、まあいいだろう」  P博士はそう言いながら振り返り、ネロを見る。だが、ネロの方を向いた時、P博士の姿は変わっていた。白髪なのは同じだが、顎髭を生やしていた。黒いマントの羽織りモノには黄緑色の雷文に似た印が刺繍されていた。  歳はP博士と同じか若干、若く思えた。 「彼の記憶の中で、彼が最も厄介だと思っていた者。それを模写させてもらった。かつて、彼がいた世界のトレジャーハンター、バラキヤ・クラヤードだ」 ----バラキヤ・クラヤード  彼はトコリコが知る者の中では、もっとも厄介な人物であると同時に宝を争奪する最大のライバルでもあった。  行動派のトコリコとは違い、バラキヤは頭脳派であり、元は軍で参謀長を務めていたぐらいの人物である。  とある理由で軍から脱走しトレジャーハンターとなった彼とトコリコは幾度となく競い合い、そして共闘してきた。  バラキヤはネロも知らない人物だ。彼の姿を模したP博士は肩に紐をかけクリティカを鞄のように抱えると、ネロと間合いを取り広い第三研究室の隅まで後退する。 「意外そうな顔をしているな」  P博士はネロの顔を見て言った。
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