4.自由を求めて

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「俺はてっきり、トコリコがよく言っていたグラスって奴を模写するのかと思って警戒していた」  トコリコの記憶を元に姿を変えることができるのならば、確実にグラスを選ぶだろうとネロは警戒していた。〈スロク〉を組織したトコリコの前世の身体を奪った【絶望】の集合体、具現化した姿。  もし、戦うならそれが一番のはずだ。その為、ネロは安易にP博士に手出しできずにいた。前々回の世界で〈スロク〉のメンバーに惨敗した経験もあったからだ。  なのに、P博士は何故かバラキヤという軍人を選んだ。グラス以上の実力者とは思えないし、見掛けは普通の人間だ。 「最初、私はそのグラスという人物を模写しようとした」  P博士はそう言うと、作業用手袋を脱ぎ捨てその手を見せた。手袋の下から出てきたのは黒く変色した指であった。 「恐ろしい奴だ。そいつに模写しようとしたら、私の身体が崩れかけた。元々、決まった姿が無かったから、被害はこの程度で済んだが、もし使っていたら間違いなく死んでいただろう」  P博士は額に汗を浮かべていた。今の話は、嘘に敏感なネロが判断するまでもなく本当のことだろう。自らを【絶望】に染め上げるということは、身を滅ぼすと同じことだ。例え、架空の人物であったとしても、グラスを真似ることは決してできない。いや、真似こと事態が愚かなのだ。それになってしまえば、自我は消滅し【絶望】しかない。 「そこで、仕方なく予定を変更した。彼がグラスの次に厄介だと思っていた人物、それがバラキヤ・クラヤードだ」 「そうか・・・。無難な人物にしたということか・・・。だが・・・」  ネロはナイフを天井に向けて投げた。P博士を狙うという訳でもなく。一見、見当違いな場所にナイフを投げたように思える行為。しかし、ネロは黙ってP博士の仕事を見ていた訳ではない。彼は彼なりに、事前の戦う準備を整えていた。  ナイフの刃先が天井の一点に突き刺さると、そこからバサッと音を立てて、無数のロープが網の目状に降ってきた。 「足場術・縄張り」  ネロは周囲に張り巡らせた縄に飛び乗ると、更にナイフとロープを懐から取りだした。もうすでに、第三研究室はネロの縄張り(テイトリー)に置かれていた。それに、P博士は気付けずにいた。
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