4.自由を求めて

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 異世界を旅しているトコリコ一人の記憶でも十分であったが、そこにわざわざ、新たな提供者が訪れたことは喜ばしいことであった。だから、殺すという無粋なマネはしない。いや、そもそも、彼らに殺すという衝動は、ほとんど、存在していなかった。作者である星村が基本的に殺人を好まず、事件を起こす際はある程度の設定が整った者を使うようにしていたのもある。もしくは、Y氏達とは違い仮名すらないモブ、外野の役目になる。 「私達の立場が上であることを示せれば、それでいい。私達は作品という檻に囚われ続けるのはウンザリしているんだ」  Y氏は虎子が隠れているであろう宇宙船の残骸に手をかけ、軽々とそれを持ち上げると、そこに隠れているでいるであろう虎子を見ようとした。 「・・・ん?」  Y氏は意外に思った。てっきり、虎子は残骸の裏にいるとばかり思っていたから。だが、そこには誰もいなかった。そこにあったのは、彼女が所有しているはずの地鍵であった。 (バカな。自分の武器を置いていっただと?)  この状況で地鍵を老いていくなど、無謀に等しい。鍵なしで虎子はどうするというのか。 『作品という檻から逃れてどうするつもりなの?』 「・・・!」  Y氏が声がした方に目をやると、虎子が宇宙船の残骸から作った即席のスピーカーと無線機が置かれていた。虎子は無線機を通してY氏に質問を投げかける。 「決まっている。私達が外になって、星村を含む連中を新たな作品の駒として使わせてもらう。すでに、プロットはできている。彼らは私達に代わる新しい作品だ」 『そう。だけど、アンタじゃ無理ね』  虎子は無線機を通してY氏に告げる。彼女の言葉にY氏は表情を歪ませた。 「無理だと?」 『そうよ。作品というのは、生み出した相手の言う通りにしか動けない。それを、自由だと思っていても、結局はそういう『作品』であるというだけのこと。あたしからしてみれば、アンタは足掻こうとしている作品でしかない』 「バカを言うな。私達は自分の意思で、自由を勝ち取ろうとしているんだ!」 「そこよ。自由を勝ち取る。それが、『作品』であって、それから先が書かれていないのよ」  虎子は無線機に言葉を投げかけつつ、手元の紙の束を捲って言う。それは、虎子がY氏の目を盗んで、どこかの星を走り周りながらかき集めた文章であった。
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