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「きおくそうしつっていうのは、じこなどがげんいんでじぶんのなまえや、すんでいたところや、いままでのことをすべてわすれてしまうびょうきだよ。おねがいだから、おにいさんのことを、まわりのおとなのひとにおしえて。むじんとうで、そうなんしているひとがいるっていったら、おとなのひとにはわかるよ。」
書いていて、バカバカしくなった。これを、またその子供のフリをしたサイコパスが拾う確立なんて、何パーセントだろう。だが、男が流したメッセージが返っているということは、あり得ることだ。もしかしたら、他の本物の子供が拾ってくれるかもしれない。願いを込めて、男は、またメッセージをボトルに入れて、海に流す。
来る日も来る日も返事を待った。もう砂浜にSOSを書くのはとっくに辞めた。無駄である上に、意外とあれは体力を使う。体力を使えば腹が減るのだ。そして、またメッセージボトルを見つけた。震える手で、蓋を開ける。
「おにいさん、おへんじありがとう。ぼくは、うれしかったよ。ぼくのまわりには、おとなはいません。ぼくは、ひとりぼっちでくらいところにいます。でも、ぼくは、もうさみしくないよ。だって、ぼくには、おにいさんというおともだちができたのだからね。」
「畜生!どこまでバカにしてやがるっ!ふざけんなっ!俺を助けてくれ!」
男は、ボトルを岩に叩きつけて、粉々に割った。このサイコパスは、助ける気はないのだ。この無人島で一人寂しく死んでいくのだ。男は泣いていた。砂浜に膝から崩れて、誰も居ない海に向かって吼えた。
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