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葬哀
流れに身を任せ、仰向けのまま水面に揺蕩う。
深夜の海水は冷たいはずだけれど、いままで少し泳いでいたから、寒くはない。
むしろ、水中の方が温かく感じる。
いまは胸元に張り付いたまま空気に触れて体温を奪っていく、このお気に入りのブーナッドの方が冷たい。
時折押し寄せる波は、揺りかごのように心地よくて……このまま眠ってしまいそう。
けれど眠りにつくにはまだ早いから、私は瞼を開いた。
――思わず、感嘆の吐息が溢れてしまう。
「綺麗……」
目の前に広がるのは、何者にも邪魔されずに煌めく天空の芸術品。
銀色の円い月と、天の川を描く星々の清浄なる瞬き。
絶対に届かないその輝きたちは、夜空に果てしない深さを生み出していて。
このまま吸い込まれて、しまいそうで。
もしその御許に抱かれて眠れるとしたなら、どれだけ光栄なことだろう。
私には、過ぎた願いだけれど……。
この光景を胸に、私は海の中へ沈んでいこう。
もう何もせず漂っていることにすら、疲れてしまったから。
自分の力で泳ぐことも、周りに流されるために浮いていることにも……疲れてしまった。
だから泳ぐことをやめて、揺蕩うこともやめる。
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