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今どき珍しいが携帯も持たない彼女だったから連絡の仕様がなく、俺はぽっかりと空いた喪失感でいっぱいだった。
そんな時、珍しく俺に声をかけてきた女性がいた。
歳は40代ぐらいで、髪は茶髪のストレートヘアー、黄色いカーディガンに黒いジーンズを着ていたが、どこか見覚えのある端正な顔立ちをしていた。
それもそのはず、彼女は宮下チヨ子さんの一人娘だったのだ。
内心驚きを隠せなかったがどうやら本人らしく、俺のことはチヨ子さんから聞いたと言っていた。
地下鉄に姿を見せなくなったチヨ子さんは二週間前に亡くなったと聞かされた。
不治の病にかかっていたチヨ子さんはいつ死んでもおかしくないと医者から言われていたそうだ。
亡くなる前、チヨ子さんは俺に伝えてくれとある言葉を遺してくれた。
「あなたに会えてお話できて良かったです。ありがとう」と……。
俺は目頭が熱くなった。
娘さんにチヨ子さんのお墓のある場所を聞いて後日墓参りをした。
花を添えて、お線香をあげると手を合わせて「ありがとう」と呟いた。
俺はチヨ子さんをモデルに小説を書いた。
タイトルは「桔梗の貴婦人」
タイトル名の桔梗とはチヨ子さんがいつも着ていた着物の柄から。
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