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「なあ、婆さん。金も返さない。店も渡さない。じゃあ、一体どうするつもりなの? オレもさ、今日は手ぶらで帰るわけにはいかねえんだよ」
「だったら、ほら」婆さんはガラスケースの上に並んだ煎餅の袋を一つとってオレに投げてよこした。
「なにこれ?」
「ひふみ屋の日本一のげんこつ煎餅だ。それ持って帰んな」
「ふざけんなよ」そう言ってオレが、げんこつ煎餅の袋を叩きつけようと、腕を振り上げた、ちょうどその時だった。
「おい。翔太」
いきなり名前を呼ばれた。振り向くと、見覚えのあるヤツが立ってた。
「信吾……」
「何だい、あんたたち知りあいかい?」
「あぁ、高校時の同級生だよ。マユミさん」信吾は懐かしそうな笑顔を浮かべながら、婆さんにそう言うと、オレの方を見た。
「なあ、でも何でおまえがひふみ屋にいるんだよ。げんこつ煎餅、買いに来たの?」
オレの持ってる煎餅の袋を見て言う。
「いや。オレはその……」答えに困るオレの横から、婆さんがハッキリと信吾に言った。
「こいつは借金の取り立てにきたんだよ」
「翔太が……。本当なのか?」信吾が複雑な表情でオレに聞く。
「まあな。でも信吾、おまえの方こそ何でここにいんだよ」
「だってオレんち、すぐそこで古着屋やってるから」
「そう言えば、そんな話、昔、聞いた気がするな」
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