第1章/Lovedeath/4.英雄

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 道すがらあたしの頭を支配していたのは、生前の泉田秀彦のことだった。ともかくやたら背が高くて、日焼けしてたってことはよく覚えている。まぁサッカー部の連中は大体そうなんだけど。目鼻立ちはまぁまぁ整っていたような。髪なんかもちょっとウェーブをかけちゃって。女子たちが「かっこいいよねー」なんて言って盛り上がってる場面に居合わせたのも一度ではきかない。あたしの好みのタイプでは全然ないけれど。  華のある男ではあったと思う。あたしは何度か廊下で見かけた印象をそのように総括する。実際泉田秀彦は持っている男だった。  昨年の選手権大会では、一年で唯一スタメンに選ばれ、通算九ゴール六アシストの活躍をみせた。特に県予選準決勝、一点ビハインドのまま迎えた後半戦で、相手校のパスミスから三人を抜いて同点ゴールを決めたことは、地方新聞でも取り上げられるなど、大いに話題となった。  結局その試合は延長PKで敗退してしまうのだが、泉田はその後も順調に成果をあげ続け、二年進級を期にエースナンバーを任されることになったという。  誰もがうらやむスタープレイヤーとして栄光の極みにあった男。それが泉田だった。もちろん今となっては何もかもが無意味になってしまったわけだが。  ――なーんか棘があるなあ。ろくに話したこともないのに。  あたしは自身の思考に自分で突っ込んで、苦笑いを浮かべる。仕方ないじゃん。泉田に特段悪意はないが、あたしにとってサッカー部ってのは鬼門なんだから。  気づけば目の前に『かぞくのふれあいおおはし』があった。あたしは「ええい、くそ」と殊更声に出して言うと、大股で橋を渡り始めた。     
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