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夕方まで警報が解除されず、港祭りが始まった。
「はじまったね、花火!」
「うん」
病室の窓からリカとふたりで眺める花火は真正面に見えた。
「わ。特等席だね!」
そう言って笑ったリカに僕は頬笑む。
「来年は……絶対会場に行こう」
「そうだね」
半年ぶりの空気の重さになれる練習が毎日しんどかった。
でも、毎日顔を見せてくれるリカに助けられながら僕は強くなっていく。
「リカ、そういえば……これ返すよ」
「うん?」
リカの前髪に硝子玉のついたヘアピンを留める。
「あはは! そっか」
海から帰ってきて爪と髪を切ってもらった僕は半年前に時間が巻き戻ったような気分で頷いて笑った。
港祭りの花火が空と海に映る。
リカの硝子の玉に描かれた花のようだと思いながら見ていた。
暗い蒼い海に、大きな花が浮かんで吸い込まれていった。
僕は硝子の海から、顔をあげて歩き出す。
リカとふたりで。ずっとふたりで。
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