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それは、広大な敷地と豪奢な建造物とが、まだ全面白く覆われる前に遡る。
青々と生い茂る木々と色とりどりに咲き乱れる花々とが…少しずつ色褪せ…落ち着きを見せ始めた頃
校舎の一角で密やかに産声を上げる存在がいたことに気づいた者は…まだなかった。
それ(名前がないので敢えて“それ”と呼ばせていただく)は地球上に一番最初に生を成した海藻のように
光合成と呼吸だけをすることに1日の大半を費やしていた。
そこから数ヶ月後に足と呼べるものが生え…あれよあれよと歩き始め…校内の至るところに顔をひょっこりと覗かせる頃には
それの存在に気づく者がわずかだか出始めた。
しかし、この頃になっても“それ”自身が自分の存在に気づいてもいなければ…
当然のごとく名前もあるはずがなかった。
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