第3章 異界

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 時雨は天音と言う苗字(みょうじ)ではない。  何故(なぜ)音無ではなく、天音と呼ぶのだろうか。  何かを勘違いしているのだろうか。  『いいえ、合っていますよ。貴方は確かに天音です。音無とは、下界(げかい)でのあなたの名前。()わば仮初(かりそめ)の名です。貴方は本来、天音と言う名です。夜光の言った名前で合っているのですよ』  時雨の疑問に答えたのは、巴だった。  夜光は未だ、真摯な顔で時雨を見つめていた。  いや、少し違うだろうか。  どちらかと言うと、夜光は感情があまり表に出ない様だ。  夜光と顔を合わせて此の方、無表情以外見ていない。  笑った事などあるのだろうか。  見てみたい、と。  思った。
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