第5章 愛し子

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 優しい時雨のままだ。  巴は夜光には劣るが、かなり変化した部類(ぶるい)に入るだろう。  時雨の前では自身を取り(とりつくろ)わなくても良くなった為か、以前よりも親近感(しんきんかん)を持てるようになった。  巴は普通だと思って居たようだが、時雨にしてみれば、巴は機械的(きかいてき)に物事をこなすだけで、痛々(いたいた)しいとすら思えた。  今ではそんな雰囲気(ふんいき)は一切ないが、それでも。  天狐(天狐)が近くに居る時は、以前の堅苦(かたくる)しい言葉遣いになる。  それも()めたらどうだ、と時雨も巴に告げたが、威厳(いげん)は必要だから、と巴は断固(だんこ)拒否(きょひ)した。  時雨も異界にいる間、巴の(もと)(おとず)れる天狐たちに会う事もしばしばある。  その中で時雨が見た限り、巴が元の口調に戻っても何か苦情(くじょう)やら不満やらを言うような天狐はいなかった。  (むし)ろ、巴にはもう少し気楽にしてほしいと思って居る様だった。  そんな事をつらつらと考えていた時雨はふと、思い出したように口を開く。
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