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藤崎学は地下鉄に乗って帰路についていた。
時刻は零時をまわり、平日の最終電車は人もまばら。
学は仕事の疲れからか、座席の背もたれにその身を沈めていた。
三つ先の駅で降りるため、睡魔と戦う学を覚醒させたのは誰かがえずく声だった。
学が顔を上げると斜め向かいに座る中年男性が自分の口を手の甲で拭う所だった。
『おいおい、勘弁してくれよ』
眠気は吹き飛ばされ、学は辺りを見回す。
スマホを弄る女性、ヘッドフォンから音漏れをさせてる青年、眠って居る者も居るが誰もこの中年男性に興味を示す者は居ない。
中年男性は落ち着きなく頭を揺らしながら目を閉じている。
その内、電車は次の駅へと到着した。
学が乗っている車両では誰も立ち上がらない。
そして扉が閉まり、また電車は走り出す。
中年男性がまたえずき始めて、思わず学は立ち上がった。
『チョット待て待て! マジ吐くんじゃねぇぞ!』
学は戸惑い、もう一度辺りを見回した。
ふと、貫通扉の向こうに後ろの車両が見えた。
向こうもこの車両同様、席はガラガラ。
学は貫通扉を開けて、後ろの車両へと逃げ込んだ。
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