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学が移った車両には十人に満たない人達が座って居た。全員寝ているのか頭を俯かせ、ピクリともしない。
静かな車両の中で貫通扉の閉まる音がやけに大きく聞こえる。
一種の異様な雰囲気に呑み込まれた学は、出来る限り音をたてずにドア付近の座席へと身を沈める。
貫通扉の窓越しに前の車両が見えた。
中年男性が体ごと揺らしているのが見える。
『もう何があっても安心だ』
学は安心感からか、またウトウトし始めた。
どれ位経っただろうか。いつの間にか眠って居た学を起こしたのは聞き慣れない音だった。
ズズズッ……ズズズッ……
何か重い物を引きずる音。
学は音が聞こえる方へと顔を上げると、その衝撃に眠気等吹き飛んでしまった。
『な、何だあいつ等……』
その光景は学の理解を遥かに越えていた。
先ず目に入ったのは天井に届きそうな程の巨体。
その巨体の持ち主は汚れて縮れた髪を肩まで伸ばし、見慣れぬ着物の様な衣を纏っている。
そして鉄製であろう大きな箱を引きずっていた。
その前にもう一人、この場合もう一匹と言う方が適切そうな存在。
『まさか……鬼……?』
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