第1章

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 仕方無く学は一駅歩く事にした。  この駅から歩いて帰るのは初めてじゃない。スマホに集中し過ぎて間違えた事は二度程ある。  だから大通りから脇道に入り、最短距離で家へと向かう。  電車の中の出来事を思い出すと嫌な汗と動悸、そして息苦しさを感じて電柱に手を突いた。  少しでも気分を良くしようとたすき掛けにしていたショルダーバッグを片側だけにかけ直す。  幾分体の締め付けと、息苦しさから解放された。  学は夜空に輝く下弦の月を眺める。  静かな月を見ていると学の心も落ち着いてきた。  電車での出来事は学の心の奥の奥へと追いやられていく。  二度と出て来ないように鍵をかけて。  その作業が終わると学は深いため息を付いた。  今後、学が地下鉄に乗る時は無意識に最後尾車両を避けるだろう。  学自身その理由、避けている事自体気付かずに。  今夜の様な下弦の月を見ると不安になる事もあるだろう。  だがその秘密を知るのは月のみ。  それが自分を発狂から守る、人の防衛本能の一つだ。
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