0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
夜に佇む
その夜、バイトで遅くなり、弁天という名前を持つ橋の海側の舗道を自転車で走りながら渡っていた時のこと。
反対側の橋の舗道の終点部分、橋の袂の街灯の下に一人誰かが立っているのが見えた。
「こんな時間に誰か立っている!?」と驚いて二度見すると、見覚えのあるトレンチコート姿である事に気がついた。
暗闇の中、スポットライトのように照らしだされたトレンチコート姿、そして異様に長い黒髪。
「また何か困っているのかな?」と見やると、
その女性は海側を向いてうつむいて立っているのだった。
「うつむいている?泣いている??」と思って自転車で近づくと、
なんと彼女はうつむいたまま大きく口を開けたままにしていたのだった。
「なんで口を開けているの?あくび??」と思い、声をかけようとしたら。
彼女の口はただの暗闇で、真っ黒で、歯の一本も見えない。
白い部分は何一つ無い、ただの黒い塊だった。
「口が黒い?」と思い声をかけるのをためらっていると、うつむいた彼女の顔の様子も見えた。
彼女の目には眼球も無かった。
ただ、黒い穴が開いているだけの両目であった。
彼女が生きているのか死んでいるのかもわからない。
ただ、黒い闇のような両目と口をいっぱいに開いて、街灯の下、スポットライトに照らされた下で、ゆらゆらと揺れていたのだった。
あまりの恐ろしさに声もかけず、「彼女が自分に気が付きませんように!!」と祈る気持ちで一目散に逃げ出した。
最初のコメントを投稿しよう!