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さすが、ど直球だな。苦笑を引きつらせて蒼衣は示されたソファに座った。L字の長い方に父と母が並んで座り蒼衣と向き合う、という心臓に悪い構図。
「ま、まぁ……バイトはいくつか始めてみたりしたんだけど、どこもあんまりいい職場じゃなくて」
「レベルが低いとかって言って辞めてくるのよぉ! 雇っていただいてるって気持ちがないんだからこの子は!」
くそ、余計な補足を。
「いや、でも、やっぱジジイになるまで働くからには妥協したくないっていうか」
「そういうのは一人前になってから言いなさいまったく。数日かそこら働いただけで職場の全て見透かした気になって」
「な……働いたことない母さんにそんなこと言われたくねえんだけど!」
夏子は21で蒼衣を身ごもり、それを期に大吉と結婚。経歴は大学中退で止まっている。それからずっと家事だけやって生きてきた人間がなにを偉そうに--
「蒼衣」
激化しかけていた口論を、大吉の一声がぴしゃりと黙らせた。蒼衣は完全に萎縮して、口を閉じるしかなかった。普段は陽気な父親だが、一度怒ると大人でも泣かせるほどの迫力がある。
「親に意見するのは立派だが、親を甘く見る奴はクソだ。覚えとけ」
「……はい」
「母さんも、抑えてやれよ。俺のいない間、ああ言えばこう言うクソガキのお守り任せっきりで悪いと思ってるけどな」
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