第2話-1

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 海鳴(うみなり)水族館。水産業と観光業で栄えるこの海鳴市が誇る、県では唯一の水族館だ。蒼衣の家から車で30分と少し。小学校の4年生だったか5年生だったか、遠足で来た覚えがある。 「蒼衣が2歳のときにも、家族3人で来てるんだぜ」 「母さんが言ってたな。写真も見せられた。全然覚えてなかったけど」  楽しげな父親に気の無い返事をする。蒼衣は海は好きだが、海の生物は別に好きというほどじゃない。羨ましいとは思うがそれだけだ。  目的地に到着した。開館前の駐車場は当然ガラ空きだったが、大吉はそこをスルーして建物を迂回していく。水族館の裏手には関係者用の駐車場があり、そこには既に多くの車が停まっていた。空いているスペースに駐車する。 「……親父、運転うまいな」  難なくバック駐車する父の姿を見て素直な感想が漏れる。蒼衣も若いなりにそつなく乗れる方だが、自分にもこんな風に男らしく運転できる日が来るのだろうか。 「がはは、お前に言われるの初めてだからなんか照れるな。……お、あいつだ」  館の裏口から出て来た職員風の男に気づくと、大吉は車から降りて彼の元へ駆け寄った。蒼衣も慌てて後を追う。 「大吉さん! お久しぶりです!」  髪を短く刈り上げた若々しい男が大吉と蒼衣を出迎えた。大吉の話では30代も半ばの年齢なはずだが、とてもそうには見えない。浅黒い肌に逆三角形の長身。白い歯の光る爽やかな笑顔。     
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