第2話-2

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第2話-2

 よくよく考えれば当然のことだ。  関係者用出入り口から館内に入り、暗く埃っぽい業務用通路を海原と並んで歩きながら、蒼衣は呆然と思った。  イルカのショーがどんなものだったか、幼い頃の記憶なので曖昧だが、一般人が誰でも簡単にできるものではあるまい。いかに父の紹介とは言え、はい採用とすぐに雇ってもらえる方が不自然。  だがこれは--チャンスだ。蒼衣は暗闇の中一筋の光を見出した思いだった。  要するに、試験に落ちればいいのである。蒼衣はイルカなど別に好きでもないし、朝が早いのも得意ではないし、そもそも人前でショーをするというのにも抵抗がないと言えば嘘になる。  給料を聞く前なら、滅多にできない経験だしやってみるかという思いだったが……父には悪いが論外だ。820円。今時高校生だってもっともらえるんじゃないか。  帰って別の仕事を探そう。やりがいは求めずに、なるべく楽で、拘束時間が短く給料もそこそこな仕事。  捻出した時間をダイビングに当てられたら、元より蒼衣はそれ以上望まない。 「蒼衣君? 聞いてるかな?」 「あ、はい! 聞いてます!」     
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