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フリーダイビングに必要なのは自然を愛する心、そして忍耐することへの敬意である--とはよく言ったものだ。
「ぶはっ!」
待ち侘びた水面から顔を出し、停泊させていた小型漁船に固定した浮き輪にしがみつくと、蒼衣は数回激しく喘いだ。それでも焦って吸うばかりになるのではなく、規則的な呼吸の繰り返しに努める。
先週に梅雨も明け、昨日あたりから気温も一気に上昇。まだ7月にも入らないうちに30℃を超える真夏日だ。思わず空を仰ぐ。目を細めずにはいられないほどの眩い蒼。空と海は、なぜこうも似ているのだろうか。
「……こんな日はやっぱり、海に入るに限るな」
「んなこと言ってぇ、お前今年も春からずっと潜ってんじゃん」
ほぼ同時に上がってきていた随伴の友人が、口からレギュレータを外すと呆れた声でそう言った。
「付き合わされるオレの身にもなって欲しいぜ」
「一度も涼太に頼んだ覚えはないけどな。断ってんのに勝手についてくるんだろ」
「かーっ、なんだよその言い草、人が心配して来てやってんのによぉ」
船に乗り込みながら毎度お馴染みの軽口を叩き合う。キャップを脱いで派手に染め上げた金髪の水気をバサバサ払う涼太が憎まれ口を叩く。蒼衣は水深計の表示を見てため息をついた。
「最近記録伸び悩んできてるんだよな。トシかなぁ……」
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