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第1話-2
沖から岸へと戻った蒼衣と涼太は、漁船を停めてアンカーを降ろすと陸に上がった。
港から蒼衣の家まで徒歩10分ほど。熱されたアスファルトをビーサンで踏みしめて緩やかな坂道を登る。焦がさんばかりに照りつける灼熱のビームを疎らに受け止める、斜めに伸びた木の青々とした屋根の下を通ると、もうすっかり夏の香りがした。
木漏れ日の降る坂を抜け団地に入ったところで、涼太が不意に口を開いた。
「つーか蒼衣、トシってのは冗談にしてもそろそろ無茶はやめた方がいいんじゃねえか? マジで死ぬぞそのうち。俺だって毎日ついてやれるわけじゃないし」
「なんだよ今更。大丈夫だって。涼太のいないときは限界来る前に切り上げるようにしてるし。体調管理もちゃんとしてる」
「そういうことじゃなくて……ほら、お前……」
涼太は一瞬だけ躊躇ってから、肌を焦がす陽光と同じくらい容赦のない言葉を放った。
「だからほら……働けよ! このまま一生フリーターとニートのハーフアンドハーフ状態続けるつもりか? もう後輩どもまで次々内定決めてってんぞ」
まさか涼太にまで危機感を煽られる段階に来ているとは思っていなかったので、ふて腐れ半分内心ドキッとした。
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