第1話-2

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「……うるせーな。大学5回生に言われたくねえ」 「いや、それがさ、かくいうオレも就職先決まったんだわ」 「はぁ!?」  思わず今日イチ大きな声が出た。派手な海パン姿のチャラ男はきまり悪さ半分、得意げ半分に白い歯を見せて笑う。 「彼女の親父さんに挨拶に行ったらさ、あの寺田工業の社長さんだったんだぜ信じられるか? 割とある苗字だから思いもしなかったけど、ラッキーだな。気に入ってもらえて、割といいポストで働かせてくれるって」  この悪友を殺してもいいだろうか。寺田工業といえばこの海鳴(うみなり)市随一のビッグネーム。蒼衣も過去2年連続受けて、もちろん落ちていた。 「ふっざけんなよ棚ボタ野郎! またそうやってしれっとなんの苦労もなく生きてくってのか! 社会なめんな!」 「お前に言われたくねえよ……ま、棚ボタは認めるけどな。彼女と3年間真摯に付き合って来たのも、親父さんに気に入られたのも俺の行いの良さだろ」  ぐうの音も出ない。確かに涼太はチャラく見えるが、恋人とは実に真剣に付き合っていたし、何より舌を巻くほどの社交力がある。致命的なバカと遅刻癖さえなければ、そもそも無事に単位を取って大学を卒業して、それなりの職場に就職できていたであろう男だ。     
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