第1話-2

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「その調子だ。お前の場合技術的に困る仕事はそんなにねえだろ。まずは1年もたせてみろ。働きぶりがよければ正社員として雇ってくれるかもよ」 「大学時代にバイトしなかったツケが回ったかな」 「はは、それはあるかもな。実家生の悩みってやつだ」  そうこう話していると我が家の前に着いた。集合住宅街に埋没したいたって普通の一軒家。とはいえこの団地はそこそこの高級住宅街なので、周りと見劣りしないというだけで実はそれなりの家なのかもしれない。  遠洋漁業というのは、どうやら結構儲かるらしいのだった。ちなみに涼太の家はこの団地を抜けた先の、山の麓付近にある。徒歩で行ける距離だ。 「んじゃ、明日からはしばらくダイビングお休みってことでいいな?」 「……しゃーない、そうするよ。とりあえず母さんが毎日どっから集めたんだって量の求人を用意してるんだ。それに目を通してみるかな。次はいつになるか分からないけど、その時は必ず連絡する」 「おうよ。またなー」  涼太と別れ、やや気乗りしない気持ちはありながらも蒼衣は玄関扉の鍵を開けた。もうそろそろ(本来なら今年の春からだが)、好きなことを犠牲にして働かなければならない年齢なのだ。今更になって再び自覚する。  憂鬱だ。吐き気がするほど。このまま夏が終わらなければいいのに。 「……あれ」     
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