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第1話-1
海が青い理由を知っているか。
両手ですくえば光を編み目のように乱反射させる、とても透き通った無色なのに、あの雄大な海は何故あんなにも、深く幽玄な青なのか。
その理由は潜れば分かる。蒼衣の場合は初めて素潜りを経験した9歳の時だった。
音が、低く鈍く停滞したような水中。水面付近で顔まで海水に浸かった程度では、まだ海水はほぼ無色透明。だが、ひとたび水底に目を落とせば、あぁ、とため息のように腑に落ちる。
海は底が青いのだ。
蒼衣がダイビングにどっぷりハマったきっかけである。潜れば潜るほど深くなる青の、その精密なグラデーションは数学的に美しく、そんな深まる海の色彩と反比例して肉体は追い込まれていく。低下していく水温。薄まる脳の酸素。水圧が起こす耳鳴り。
強烈な生と死の気配を両隣に感じながら、どこまでもどこまでも、青の果てを目指して潜り続ける。限界はやがて来るが、1日ごとに長く潜り続けられるようになっていくのが楽しかった。
今年で14年目になるベテランダイバー蒼衣は、今日も幽玄な青の世界を潜っていた。
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