無限増殖する蟲

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無限増殖する蟲

 その村を虫が襲ったのは、まだ暑さも心地良く感じられる初夏の事だった。  北関東に位置する上州の田舎である群馬県藤原地区、その更に奥まった場所に存在し長野県と認識される事もままある北妻蕗村。最近何度かテレビでも取り上げられ、秘境中の秘境として一部のマニアに薄っすらと認知されている村である。 『東京ドームには行った事があるけんども北妻蕗村には行った事ねぇべ』 『あすこはナビでも表示されないから迷いに行くようなもんだべ』  と県民ですら言う位のド田舎なのだから、一部とは言え他県の人達に薄っすらとでも認知されている事はある意味、村民にとって自慢であった。  噂を聞きつけ訪ねて来る物好きな若者もいるし、時代設定が一昔も二昔も前の映画を撮影するために村をロケ地に選ばれた事もある。  だからと言ってほぼ百パーセント自給自足で産業も商店も民宿すら無い村なので、訪れた人達が金を落とす事も無く豊かになる事は無いのだが、それでも村民達は稀に訪れる物好きな観光客との交流を楽しんでいた。  群馬県と言えば盆地で暑さが溜まりやすく日本一暑いイメージだが、北の方はどちらかと言えば年中涼しい。  七夕の日も初夏にしては肌寒く、まだまだ長袖が手放せない外気温だった。  北妻蕗村周辺もそれは同じで、まだ蝉の鳴き声も少なく蝶々がチラチラと飛んでいるのが目に付く程度だった為、真夜中に起こった異常事態を村民の誰もが信じられずにいたのだ。
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