1343人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
***
そして結局奢ってもらった。
カフェの近くにある牛丼屋で。
遠慮を知らない俺は店に入るや、大盛りつゆだくしかも玉子付きの注文。
ハッとしてまたもや犯したミスに気付いたのは、店員に元気よくオーダーした後だった。
そこは謙虚に行くべきだったのに。
小、少なくとも並盛くらいにしておかなければならない場面だった。
奢って貰う気満々な時点で、すでに問題外なんだけど。
ところが田岡は文句を言うわけでもなく、慌てて注文を取り消そうとした俺を横から遮った。
「じゃあ、それと並で」なんて普通に付け足して、おずおずと窺いを立てる俺を見て困ったように笑った。
ミジンコみたいにごくごく小さな罪悪感を、心のほんの片隅の方でっそりと持っている割にはまあ、そこそこたらふく食って。
帰り道、なんとなく仲直りできたのかなあと楽観視しながらぷらぷら歩いていると、静かだった田岡がふと口を開いた。
ごめんな。
そう言われて、それまでのポワンポワンした心地から一気に現実に引き戻された。
街灯に照らされた夜の道で隣の田岡を見てみれば、小さく笑ってはいるけどどこか辛そう。
言葉なく、田岡から目を離せずにいると、「当たり前だけど、こんな事で許してもらおうとは思ってねえから」と。
違うよ。
許してもらいたかったのは俺の方だよ。
精神的にキツい脳内予行までしていたのに、俺は未だに一言も謝っていない。
田岡は真面目すぎた。
今がもし刀を振り回している時代だったら、間違いなく自分の腹を切っていた。
そんな男と一緒に歩いて、じゃあなって別れる道にまで辿り着いた。
ここでこのまま家に帰って、明日田岡と顔を合わせた時にはどうなっているだろう。
田岡の性格から考えると、今までのことを全部なかったことのようにしているような気がする。
何もなかったことにして、俺が言っていた望み通り、ほんとにただのトモダチに戻しているような気がする。
「……田岡っ」
そんなの、
「お前の部屋、行きたい」
寂し過ぎる。
最初のコメントを投稿しよう!