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「…さすがに偏りすぎじゃないですか?」
短大の講師を兼任する能間が戸惑った声をあげた。
「能間さん、うちの発行部数をお忘れで?」
「確かに笑ってしまうほど少ないですが、集まっていた作品にはもっと他の切り口もあったように記憶しています」
天井に吊るされた扇風機では生暖かい風しか届かない。それはちょうど夕べの海風のようだった。
「それが、今回は普段の倍応募があったんですよ」
事務方の木崎は汗を拭う。
「あれなんですかね?どっかの町会とかがうちの応募を見つけてまとめて応募してくれたとか…」
「これは全てサイトからの応募だろう?応募の必須要項は年齢と性別、メールアドレスだ。これだけじゃ憶測出来かねるな」
編集部長を務める山辺は無精髭をさすった。目は依然、プリントアウトされた無機質な文字を味わうように眺めている。
「ここまで絞ったのは誰だ?和田津くんか?」
「は、はい」
和田津と呼ばれた細身の男は目を右へ左へ泳がせた。年は周りと比べるとふた回り近く低かった。
「最後の一首は他と比べるとニュアンスが違うな。なぜ入れた?」
他にもっと聞くところがあるだろう。そんな声なき声が上がる。
「て、寺山修司を思い出したので」
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