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「母さん、いってきます」
扉を閉めてチャリ置き場に向かうと、白いセーラー服の彼女がしゃがんで待っていた。
「遅いよ、そうちゃん。待ってたんだから」
そう言ってスカートの裾を直しながら、彼女は立ち上がった。そして少しほっぺを膨らましてみせた。
「ごめん、ごめん」
僕は彼女に手を伸ばした。彼女の顔が少し緩んで、僕にカバンを渡した。チャリ籠に彼女のカバンを入れた。真新しい制服を汚すわけにはいかないから、僕はカバンからタオルを取り出してママチャリの後ろにひくと、彼女はちょこんと横向きに座った。そしていつものように僕のシャツをつかんだ。
「ねぇ、そうちゃん。もうすぐ夏休みだね」
背中から彼女の声が聞こえた。
「そうだね」
僕はそっけなく答えた。
「IsTの新曲聴いた?あれ最高。毎回言うけど、カッコいい。ヤバイね」
「そうだね。絶対好きだと思ったよ」
昨日それを聴いたせいで寝不足なんだよなぁ、話を聞きながらそんなことを思っていた。
「私、フェスに行きたいなぁー」
彼女の話はいつも唐突だった。
「その前に期末だろー勉強しろよ」
「余裕だよ、そうちゃん、私を誰だと思ってるの?」
ガタンゴトン、電車が横を通り過ぎた。
「だから、行こーよ」
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