第1章

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 私が微笑むと、少年は子供の気紛(きまぐ)れで、突然私に背を向け走り始めました。そして、途中で振り返って『また会おうね』と言ったのです。そしてどこかへ走りさってしまいまいした。  それから、その神社の敷地から子供の遺体が発見されたのは、数日後の事でした。それからしばらくは近所で警官の姿を見かけることが多くなり、むごい内容の噂話が街にあふれ、なにやら怖い雰囲気になっていたのを覚えています。  女の身ですから、そういった恐ろしい知らせや噂話からは遠ざけられていたのですが、それでもあらかたは耳に入ってきました。  遺体は何年も前に殺されたものらしく、全身完全に白骨化していたといいます。なんでも、骨になったのは××家の二番目のおぼっちゃんだったとか。  私は、××家のご主人が長男をひどく可愛がっていたのは知っていましたが、次男の方を虐待していた事は知りませんでした。  次男は世間体があるからか、いい着物こそ着せてもらってはいたものの、玩具(おもちゃ)も、ロクな食べ物も与えられず、服から見えない場所を選んで暴力を振るわれていたといいます。そして、実の父に殴り殺されたのをこっそりと神社に埋められたのでした。大方、近所の者には、養子に出したとかそれらしい嘘をついていたのでしょう。  掘り出された骨は、ビー玉をしっかりと握っていたとの噂です。そのビー玉に半月傷があったのかどうかは聞き及(およ)んでいません。けれど、きっとあったろうと思っています。  そして、掘り出された骨は小指の先が少し欠けていて、そのカケラはどこを探しても見つからない、との話でした。  そしてその話を聞いたとき、私が少年から受け取った物の正体がはっきりと分かりました。あれは流木などではなく、彼の骨なのです。服も肉も土になり、何もあげる物がなかった彼は、お礼に自身の骨をくれたのでしょう。  その骨は、今でもキレイな箱に入れられ、私の机の引き出しに大切にしまわれています。  別れ際、『また会おうね』とあの子は言いました。私の命が尽きるとき、また彼に会えるのかも知れません。あるいは、いつか、私の命を奪いにくるのかも知れません。それを思うと、なんだか早く会いたいような、恐ろしいような、なつかしいような、悲しいような、なんとも言えない気分になるのです。
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