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「ユキ」  閉じた瞼から滴が零れ落ちる。 「今度は無理だよ、2回目は耐えられない」  シュンの震える手を引っ張り抱きしめた。 「2回目って?」  わかっているのに聞く。 「ユキがどこかに行ってしまったら……もう僕は無理だ」 「どこにもいかない」  腕の中で大きく肩を震えさせると、シュンは声をあげて泣き出した。 病院に「迎えにきた」と告げたときに涙をみせたけれど、それからは一切泣くことがなかった。忌々しい経験と記憶は消えていないだろう。過去の話をしたときもいっさい表情は崩さなかった。  沢山の人間を踏み台にしたくせに誰のことも好きになれなかったという俺の話を聞いても、シュンは何も言わなかった。  俺達は互いを欲しているのに、それをいう事もせず、触れもせず同じ空間で一緒にいたのだ。恐る恐る、互いの心を探りながら、過去を塗りつぶすために過去をなぞった。  俺はだまって抱きしめながら背中をさすり続け、シュンは泣き続けた。
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