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どれくらいそうしてただろう。シャツに沁みこんだ涙が冷たくなった頃、ようやくシュンが胸を静かに押して腕の中から抜け出す。
「もう、話をすることがないんだ。そしたらユキが居なくなってしまうような気がして怖かった。怖くなったら今までの嫌なことが噴き出してきて……」
「どこにもいかない」
シュンがおそるおそる視線を上げる――それを捉えて見つめ返す。
「泣けるようになるまで待っていただけだよ」
「え……」
「小説や色々なことがあって張りつめている時に、俺の気持ちを押しつけても意味がない。
7年も離れていたんだ、いくらでも待てる。強張り……少しはほどけた?」
止まっていた涙がまた目じりに溢れはじめ、そっと手を伸ばしてすくいとる。
「シュンが好き。他には誰もいらない。7年頑張ってみたけれど、心変わりができない。
どんなに願っても他の誰かを代わりにしても、シュン以外じゃダメだってことを思い知るだけなんだ」
「こころ……がわり?」
「そうだよ。ずっとそれに取り組んだけど惨敗だ」
おどけて見えればいいと思ってつくった表情のせいで、自分の頬にも涙がつたう。
「僕もそればかり考えてきた。でも……無理だった」
「それにそろそろキツイ」
「なにが?」
「予備の布団で寝るのがだよ。安い布団は背中が痛い」
先生のところから連れてきたシュンをベッドに寝かせたから、必然的に俺は予備の布団を敷いて寝ることになった。とてもあの状況のシュンを煎餅布団に寝かせられなかった。
「あ!それはずっと思っていて。今日から僕が布団で寝るから。それに部屋も占領しちゃってるし、もう打ち合わせもないから、ごめん」
急に慌てたように謝るシュンを抱き寄せる。
「違うよ。今日から俺もベッドで寝るから」
びくっと震えたシュンは俺の腕から後ずさる。青ざめた顔色は白に近く、かみしめた唇が切れてしまいそうだ。
「僕は……汚いからダメだ。それはできない」
「シュンは俺が嫌いなのか?」
蒼白な顔で目を見開き首を大きく横にふる
「違う、嫌いじゃない!でも……でも!僕は!」
「シュン、俺がお前を汚いと、そんな風に考えるような人間だと……そういうことか?」
口元を抑えながら力なく首を振り続ける。その体はとても小さく見えて消えてしまいそうだ。
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