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珍しくかかってきた電話の彼の声が、とてもとても遠く感じたのを覚えてる。
「何言ってるの、好きだよ。」
「ほんと?何か俺、分からなくなっちゃった。付き合うとか、恋愛の意味とか。」
心が冷や汗をかいたように冷たくなり、頭が混乱し始める。
「私と別れたいの?」
「分からない。」
「私のこと好きじゃなくなったの?」
「…。」
元々、悩みを自分のなかで溜め込むタイプの人だった。
それを救おうとして空回りするのが私だった。
「咲子のことは…好きだよ。会いたいと思うしキスもしたい。触れたいとも…思うし。」
文面にしてしまえば甘い言葉。
声にしてしまえば、冷たい言葉。
「でも、恋人として付き合える自信がなくなった。ごめん、何言ってるか分からないよね。」
「…分かるよ。」
えっ、という拍子抜けしたような声に笑いそうになったけれど笑わなかった。
「“そういう”友達になりたいんでしょ。」
親友のような関係。
恋人のようなことをする関係。
なんて哀しい関係。
「咲子が良いなら…俺はそうなりたい。」
「良いよ。」
あっさりと了承の言葉が出たのは、彼に対する憐れみと離れたくないという素直な気持ちだった。
その後に1度会ったとき、電話の言葉が本当のことだったことを痛感した。
私を見つけた時に見せた表情、手を1度も繋がなかったこと、話し方…。
極めつけは帰り際。
我慢出来ずに私が彼の頬にキスをしたとき、彼は泣きそうな顔で「ごめんな」と呟いたのだ。
その後はお互いに何も言えずに、私はただ彼が乗って帰ってしまった汽車を見つめていた。
1人で泣きながら、見つめていたのだった。
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