4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
真っ暗なのに、はっきりと分かる表情。
「咲子、俺は」
「このままじゃ、駄目だよ。」
ずっと言いたかったこと。
「話をしなきゃ、分かるものも分からないんだよ。」
心に隠していたこと。
「分からないなら、考えたら良いよ。2人で話して、分かっていこうよ。」
本音を言うのが怖かった。
何と思われるのか、どんな表情をするのか。
でも、今なら言える。
「私は孝弘が好き。この気持ちに嘘はつきたくないの。本当に好きなんだよ。」
「俺は」
しっかりと目が合ったのが分かった。
「連絡が来ないからって、ただそれだけで勘違いしてた。咲子の気持ちを全然考えてなかった。」
「それは私もだよ。孝弘の負担になりたくないからって、それが良い彼女の条件だからっ…て…。」
言い終わるか終わらないかの瞬間で、彼が私を抱き締めた。
今までで一番、強く感じた。
「馬鹿だな、俺たち。」
懐かしい匂いと温もりに泣きそうになる。
その時、汽車が警笛を鳴らしながらやってくる音がした。
2人を包む水月の海色に、混ざるライト。
それでも、私たちは離れなかった。
「咲子が好きだよ」
ずっと聞きたかった彼の心。
この海が私たちをもう一度繋いでくれたのだと思ったとき
汽車は、行ってしまった。
海を照らす月だけが、私たちを見ていた。
この海の色は、まだ知らない。
最初のコメントを投稿しよう!