幽霊の掛け軸

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幽霊の掛け軸

 祖父の家には古い掛け軸が飾られていて、祖父はそれを『幽霊の掛け軸』と呼んでいた。  でも、掛け軸には何も描かれていない。古い品だから年月の経過で絵が薄れ、紙の黄ばみで見えなくなってしまったのかもしれないけれど、ともかく黄ばんだ無地の紙にしか見えない。それでも祖父がそう言っているなら、以前は幽霊の絵が描かれていたんだろう、くらいに思っていた。  ある年、用件は忘れたが、俺は祖父の家に泊まることになった。  布団が敷かれたのは掛け軸の飾られている部屋だったが、幽霊のと言われていても、実際は何も描かれていない掛け軸など怖くもなんともない。  あっさり眠りに落ちたのだが、夜中にふと目が覚めた時、俺は自分の目を疑った。  掛け軸から煙のような白い物が出てきて、俺には目もくれず、襖を突き抜けてどこかへ消えて行ったのだ。  幽霊? 本当に?  動揺する俺の目の前で、次から次へと白い物が掛け軸から現れ、襖を突き抜けて消えていく。それを何度か見送った辺りで俺の意識はなくなった。  翌朝、起きるなり俺は祖父に昨夜のことを話した。すると祖父はこともなげに、『お前にも見えたのか。やっぱりうちの血筋だな』と答えた。  祖父が言うには、あの掛け軸は幽霊があの世とこの世を行き来するための出入り口で、夜な夜な軸から出てきてはどこかに行き、夜明け前に戻って行くらしい。  幽霊を初めて見た時は恐ろしくて、お寺に持って行ったりもしたが、何故かその時には枕元に幽霊が現れて、もっと恐ろしい思いをしたという。だから部屋に飾っておいたら、ただ出てきてどこかへ行き、帰ってくるだけになったので、それならまだその方がマシと、ずっと飾っているらしい。 「よそから嫁いできた婆さんやお前の母さんには見えてないが、わしもお前の父さんも見えてるから、うちの血筋は見えるってことだ。だから、将来的にはお前が管理をよろしくな」  父親も俺も一人っ子だから、必然的に父方のあれこれは俺が継ぐことになる。それは判るけど…まだ祖父から父親への代替わりさえしてないのに、俺は今からとっても憂鬱だよ。 幽霊の掛け軸…完
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