初恋のお兄ちゃん

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初恋のお兄ちゃん

 アタシの初恋の人は近所に住んでたお兄ちゃん。といっても、アタシはうんと小さかったから、相手の名前は覚えてないんだけどね。  記憶にあるのは優しい笑顔と、名前を呼んでくれる穏やかな声。それと、頭を撫でてくれる大きな手の感触。  とっても好きだったけど、お兄ちゃんの家族は引っ越してそれきり会えなくなってしまった。  当時のアタシは、毎日『お兄ちゃんどこ?』って言いながら泣いていたって、お母さんが教えてくれたことがある。  それがアタシの、叶っこなかった初恋。  あれから十年以上が経って、今アタシは二度目の恋をしている。といっても、これも叶いそうにないんだけど。  相手はこの春から赴任してきた英語の先生。もちろん打ち明けられないから見てるだけ。  でもそんなアタシの恋に、千載一遇のチャンスが訪れた。  今日はたまたま日直で、当番の相手が部活で忙してっ言うから、アタシが日誌を書いて職員室に持って行った。  会議か何かあったのか、担任どころか他の先生達も出払っていて、机の上に日誌を置いて出て行こうとしたら、偶然、憧れの先生が入って来た。  何か話しかけようとしたけれど声が出ない。それでも二人きりなんて、今後ありえないシチュエーションだから、告白は無理でも、少しても先生との距離を縮めることができたら。  そんな思いでじりじり近づこうとしたら、近くにあった椅子に足を引っかけて転んでしまった。 「大丈夫か?」  転んだアタシにすぐさま先生が手を差し伸べてくれる。でもそれを嬉しく感じるよりも、アタシは恥ずかしさでいっぱいだった。
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