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現代日本の××事情
午前一時。草木も眠る丑三つ時まで、あと二刻。
轟音を響かせて地下鉄のトンネルの中を、最終電車の車両がスピードを上げて走っていく。何十、何百もの人間を乗せて走っているのだろう鉄の塊がレールの上を一瞬で走り去ると、後は響いていた音だけを余韻のように残して、今さっきまでの存在感が嘘のようにトンネルの中は静まり返る。
「……行ったかい?」
「行った行った」
その静寂の中に聞こえた、声。
人どころか何の生物の気配もないはずのそこに、密やかに通る声と明るく弾んだ声だけが生まれる。がその声が生まれた瞬間に、まるでその声の後を追うかのようにトンネル内に人の姿が現れた。
いや。人では、ない。
丈が短くフリルやレースで可愛らしく飾り立てられた和服ロリータを着た少女や、頭に猫の耳を生やし尻から二股の尻尾を出している女性、同じく頭に猫のような耳を生やしけれどこちらは狐の膨らんだ尻尾を持つ制服姿の少年、眼鏡の奥の眠そうな目を擦りながら欠伸を繰り返す狸の耳と尻尾を持つ男性まではかろうじて人間らしい姿を保っていたが。
他には地下鉄のトンネルの高さいっぱいにそびえる壁、頭に皿背中に甲羅のある半魚人のような生き物、先ほどまではついぞなかったはずの布が宙を不自然な滞空時間で舞い、三匹のプレーリードッグのような獣は一匹が棒を持ち、一匹が鎌を持ち、一匹が薬壺を持っていた。
他にも他にも、明らかにさっきまではいなかった奇々怪々な生き物たちが、無色透明だったはずの空気から現れる。
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