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こんなに光がなかった時代の新月の夜。柳の影。山街道から外れた森の中。建物の隙間の路地裏。地下の誰も入らない部屋。そんなところに私たちはいた。地上はもう光で溢れてしまった今でも、ここには闇への恐怖がある」
深く、深く。一瞬の強い光に照らされる時があるからこそなお深く。ここは凝縮された闇の掃き溜めだった。闇に彩られ、あちこちに不気味な配線がのたうち回っている半円のトンネルは、まるで大口を開けて餌を飲み込もうとしている化け物のようにも見えて。
その中に我が物顔で居座り、目を妖しく光らせている妖怪は、まさに人外の化生だった。今すぐにでもこの大口トンネルがぱくりと餌を――自分を飲み込んで目の前の存在と同じ闇の中に取り込んでしまう想像をしてしまって、男は一気に背筋を冷やす。
そのまま翻ると手と足を忙しなく動かして、ほうほうの体で男は元来た方向へと転がり駆けていった。
「ありゃ。行っちゃった」
「自分で死ぬような事までしておいて、まだ怖いものがあるんかねぇ……。あっち行ったらあっちはあっちで別の妖怪がいるのに」
「あっちにいるのは小豆洗いのおじいちゃんとかだっけ? 狂骨さんとか見たら気絶しちゃいそう」
「狂骨こそまさにザ幽霊って感じの姿だからね。ま、今までの幽霊と同じく、その内嫌になってここからいなくなってくれればいいけど」
「そうだよね。下手に霊感ある人とかに幽霊さんが見つかって、そこから芋づる式にこっちまで見つけられたら面倒くさいもん。まぁ、私たちは姿隠せる術が使えるからすぐ隠れられるんだけど」
「せっかく見つけた根城だし、無くしたくはないよね」
猫又の言葉に座敷童は力強くただ頷いた。
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