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男にはああいう風に言ったがそれでもこの現在の日本で妖怪が生きていける場所は少なくなった。都心部の地上は恐怖を感じないように人間によって光で塗りつぶされ、生きていけるのは郊外の人が入らない自然の中がほとんどになった。
けれど妖怪は元々人間の傍にいて、人間の作ったものを利用して生きるのが当たり前の生き物だった。
昼の生き物が人間ならば、夜の生き物が妖怪。
昔は同じ場所でそんな風に生きる刻(とき)を分けて暮らしていたから、妖怪ばかりが一方的に人間の手の入っていない自然で暮らせるわけがなかった。
そうしていつの頃からか、妖怪は地下鉄の奥の奥。駅と駅の間のトンネルに棲むようになった。強すぎる光。その光に照らされない強い闇。普段使っているトンネルなのに、けれどその実態を何も知らないという人間からの恐怖は、妖怪たちには過日の恐怖を思い出させて居心地がよかった。
その中で妖怪たちは昔と同じように、人間の作り出したものの恩恵に与りながら暮らしている。
そんな風にして本当に、人間の隙を突くように深い深い地下鉄トンネルの暗闇の中。現代日本の妖怪事情は、連綿と続いているのかもしれない。
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