現代日本の××事情

5/11
前へ
/11ページ
次へ
「人間……?」 「いやこれは……」  警戒の瞳で彼方を見やる座敷童に、小さく猫又が不審さを滲ませた声で囁く。 「人間、だよ」  その時、座敷童の足元にまで四つ足で駆け寄ってきた獣が甘い声でそう言った。全身毛むくじゃらの猿のような体に、少年の顔、そして頭よりもなお大きい耳を持ち、人の心を読むと伝えられる覚(さとり)。そうして覚がそう言った瞬間、  ずるぅり、べちゃべちゃべちゃ! ずる……、ずる。  はっきりと濡れた『肉』を引きずる音とそれを床にぶちまけた音を響かせて、ソレは闇の中ぽっかりと浮いた光へと姿を現した。  頭は鼻から上が欠け赤黒い肉を零し、手は指が全て落ち小さく丸まった拳だけになり、足は左足がかろうじて繋がっているだけで薄く叩いて伸ばされた棒状の物、としか言えない何かになり果ててソレの歩みに合わせて引きずられていた。かろうじてスーツだと分かる服はどす黒くなった血にしとどに濡れ、乾く事のなく流れ落ちるものがソレの後に小さく血だまりを作る。 「ただブラック企業に耐えられなくて電車に飛び込み自殺した、サラリーマンの霊だけどね」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加