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あんな状態でも思考回路は読めるのだろう。心を読んで、霊がどんな境遇かを見抜いた覚が、現れた人間霊にも臆する事無く、何でもないように続ける。
そうしてその言葉が地下鉄内のトンネルに広がった瞬間、今まで緊張していた雰囲気が一気に弛緩した。
「なーんだ、幽霊の方か。生身の人間だったらどうしようかと思ってたけど。解散解散ー」
「ところで一つ目入道さん、ここをポチっと押してくれるだけで構わないので」
「お主はまだ諦めておらんのか!」
座敷童の声に弛緩した空気は更に緩んで、また皆思い思いの行動に戻っていった。化け狐が変わらず一つ目入道に縋りついている声を耳に入れながら、猫又が霊へと視線を向けたままため息を吐く。
人間相手だったら悲鳴の一つでも上げられて周囲一帯を混乱の渦に叩き込みそうな姿をしているのに、まるでそこら辺の小石程度の反応しかされない霊があまりにも不憫で。
猫又は山に棲む猫が変じて生まれたものとも言われているが、もう一説には長い間人間に飼われた猫が変じて生まれるとも言われる。もしかしたらこの中で一、二を争うくらい、人間に対しては愛情を持っているのかもしれないから。
「ちょっと座敷童。アンタ何とかしてやりなよ。アンタ得意だろう、ああいうの」
だから人間好きにおいては自分と一、二を争うであろう座敷童の肩を叩いて不憫そうな目を向けたままそう言う。対する座敷童は猫又の言葉を聞いた瞬間に面倒くさそうに表情を歪め、「えー」と不満げな声を上げた。
「面倒くさいなぁ。まぁ最近は座敷童らしい事何にもしてないからたまにはいいか」
そう言ってそれでも怠そうなため息を一つ吐いた座敷童は何一つ警戒した様子もなく男の霊に近付いていった。
目を失っている霊は近付いてくる少女に気が付かないのだろう。千切れるほどに伸びきった足をずるずると引きずりながらそれでもただこちらに歩いてこようとするだけだ。
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