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「簡単に説明すると、この子は人を幸せにする力を持っているのさ。その力で見るからに不幸そうだったアンタのあの姿を、少しでも幸せそうな普通の姿にした。それだけの事さ」
「そ、それだけって……。そんな事出来るなんて一体……」
「言っただろう? 私は猫又。この子は座敷童。もっと大きな括りで言うと、人間は私たちの事を妖怪と、そんな風に呼ぶねぇ」
言いながら猫又が、真白い尻尾をまたゆらりと揺らす。自身のその身に纏わりつかせるように。
猫の尻尾を生やしそれを自在に操り、そしてその尾が一本ではなく二本もある女性(にょしょう)。その女性が放った『妖怪』という単語には流石に聞き覚えがあるのか、先ほどまで亡霊の姿をしていた男が、理解して全身を震わせる。
等間隔に設置されてある僅かばかりの人工灯と白々しいまでに光るスマホだけが光源の闇の中で、目を妖しく光らせる者ども。黒、金、赤、青、緑、紫、白。人間らしい色から人間ではありえない色まで、全てが全て、男をいつの間にか見ていた。自分たちとは種族そのものが違う生き物を前にして、背筋が凍るほどに冷たい眼差しで。
今この場では、自分こそが闖入者で、対峙しているのが間違いなく自分とは異なる生き物だと気付いた男は力が入らなくなったように腰から崩れ落ちた。
「ほら、そろそろ回復しなよ座敷童」
「いやー。うん、大丈夫大丈夫。何となく覚悟は出来てたし」
その最前線で座敷童が、まるで何でもないように猫又に励まされてようやく立ち上がる。和服ロリータの裾を飾るフリルの埃を払うように叩けば、男に向き直った。
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