目無しと耳無し

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木製の床と布を被せて作った屋根という粗末で狭苦しい空間の中、キスカとアルはいました。時折、石に当たって馬車が跳ねる感覚を味わいながら。 走りはじめて半日は走っているでしょうか。2人とも手足を縛られた状態です。埃っぽさと近くを飛び回る虫に苛立ちながらキスカはアルに悪態をついていました。 「せめてアンタが護身術でも学んでいたら......てかアンタがうろうろしなければこんな事には」 まるで獲物を狙う獣のようにアルを睨んでいますが当の本人は。 「人間、好奇心には勝てないもんだね」 自分の行動に開き直っていました。 それを聞いて更にキスカが文句を言うという悪循環です。自分の実力不足だったのも事実ですがアルがふらふらしなければ路地で男達に絡まれることも無かったでしょう。 すると前の格子戸からあのフード男の怒号が飛んできます。 「うるせえぞ商品共! いい加減黙っとけ!」 「気安く話しかけないでくれる?」 キスカとフード男の罵声も何度目か、というほど繰り返されていました。 結局キスカはアルを人質にとられ、抵抗を止めざるを得ませんでした。金髪男が拳銃を突きつけ、フード男がアルを人質にしたことで諦めました。 キスカは怒り疲れて壁にもたれかかります。 「でもなんで逃げなかったのさ」 「はいぃ?」 アルの唐突な質問にキスカは上手く頭が働かず間抜けな声を出します。 「僕との付き合いなんてほんの数時間だよ。そんなほぼ他人の命と君の安全、僕なら自分可愛さに一目散(いちもくさん)に逃げるね」 薄情だと思いつつキスカは答えます。 「自分可愛さに見捨てました、なんて軍人であるパパに顔向けできないし」 本当は理由は別にありますが、あえて口にしませんでした。 「僕みたいのをいちいち助けるんじゃ、命がいくつあっても足りないね」 なんて呑気に話していると、布の隙間から工場らしき建物群が見えました。夜という時間帯もあり不気味な雰囲気を放っていました。 「ひとまず、あそこにお前らを閉じ込めておく」 見ていることに気づいた金髪男が短く言いました。 キスカは金髪男を睨み付け、脱出の方法を模索するのでした。
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