プロローグ  耳無しの少女

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秋と呼ぶには肌寒い気温、キスカは朝早く人の多く集まる市場に足を運んでいました。 この時期は他国から来た貿易商人などで賑わい、市場は一層活気に溢れます。他国でしか見られない珍しい物もあるのでコレクターがこぞって買い占めに来るのでした そんな喧騒(けんそう)の中、キスカは学校へ行く途中です。本当は行きたくない足は自然と重くなります。 それも当然です。学校でのキスカは友達と呼べる存在がおらず、窮屈(きゅうくつ)な思いをしているのですから。 そんなことを考えながら黙々と歩いていると、キスカはふいに立ち止まりました。 「......?」 キスカはこれまで奇妙な人物には幾度(いくど)となく会ってきましたが、今見えるのはそれらのどれとも違う雰囲気の持ち主でした。年がキスカと近い男の子のようです。この国でも珍しく、目立つ容姿をしています。 そして、少年の挙動が明らかに『他国に来たけど親とはぐれて途方に暮れている』のそれでした。 普段なら無視するところですが、この時は何も考えず声をかけていました。 「君、どうしたの? 迷子?」 「え? あ、まあ、恥ずかしいことに......」 少年は話しかけられたことにしばらく気づかなかったのか少し遅れて反応しました。 迷子と認めるその少年はキスカよりも年下に見えます。この国では見られない明るめの蒼い髪、護身用なのか腰には装飾(そうしょく)の施された短剣。 そして、目隠しするかのように蒼い布を巻いていました。
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