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プロローグ 耳無しの少女
辺りは既に日が落ちて暗くなり始める時間帯、少女は森の中で仰向けに倒れていました。
歳は10代後半でしょうか。ひとまとめにした金色の髪が土に汚れるのも気にもせず悔しげに上空を睨んでいます。その両目はそれぞれ色が異なっていて、耳には小さな機械を装着しています。
迷彩柄の服に身を包み、腰にはナイフが提げられています。遊びたい盛りであろう少女には似つかわしくない格好です。
そして、少女が倒れている横で同じ服装をした男性が煙草を吹かしていました。
「いつまでふて腐れているんだよ」
「別にふて腐れてないし」
「その様子と表情で否定しても説得力が皆無だな」
男性の言う通り、少女は端から見れば寝転んで拗ねているようにしか見えません。
男性は少女を慰めるように話しかけます。
「案は良かったよ。巧みに仕掛けたにも関わらず、それを避けると読んで仕掛けた2重トラップ。お前にしちゃ上出来だった。でも」
「場数が違う、でしょ?」
少女が途中で言葉を遮ります。その声は敵意を含んだ刺々しいものでした。
男性が苦笑しながら続けます。
「まあな。どんだけ巧みな罠でも所詮は子供の考えたもんだ。このレベルの罠は飽きるほど見てきたよ。罠ってのは、いかに相手の裏を読んで確実に当てられるかが重要なんだよ」
「そんなこと言ってもさ、数多の戦場をくぐり抜けてきた歴戦の猛者、アラン少将を罠にかけろだなんて無茶もいいとこじゃない」
「お前もその血を継いでるんだ。無理なんて言わせないぞ。意地でも罠にかけて見せろ」
「そう言うなら、わざとかかってよ......」
「それじゃ練習にならないだろ。本番で相手はわざとかかってはくれないぞ」
「にしてもハード過ぎ」
悪態を吐きながら少女、キスカ・アイクマンは立ち上がりました。
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