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目無しと耳無し
どうして、こんなことになってしまったのか。アルは考えます。
院長に無理矢理、外国へと連れてこられたからでしょうか。
院長がどんどん先に進んでアルを置いていったからでしょうか。
どんなに分析しても今の状況に至る理由が見つかりません。今現在の状況、異国の少女に手を引かれるといった事態は予測不可能でしょう。
そう考えながら、手を引く少女と話をします。
「ふーん、海の向こうから来たんだ。でもなんで言葉が通じるの?」
「僕らが使っている言語は大昔から使われてるからね。周辺の国へ行っても言葉は通じるよ。少し訛りがあるかもしれないけど」
「博識ね」
「一般教養だと思うけど......」
少女はしばらく感心した後に質問をしてきました。
「なんでこの国に来たの? ここは軍事施設以外に見所なんて無いわよ?」
アルは頭を掻きながら答えました。
「僕だって拒否したんだ。でも院長が『本だけでなく現場へ行くことも必要だ』とか言って。絶対1人で行くのが嫌だっただけだよ、あの人」
「苦労してるのね。目も見えないんでしょ」
「君も耳が不自由なんだろ。お互い様だよ」
聞くところによると、少女は昔に事故で聴覚がほとんど死んでいるそうです。父の仕事仲間に専用の装置を作ってもらい、それでなんとか生活は不便してないそうです。
「それはそうと、折角だし院長サンを探しがてら近くを少し案内しようか?」
「でも学校に行く途中なんじゃないの?」
「どうせアタシ成績トップな優等生だし、1日くらいサボっても問題ないよ」
いやマズイだろうとアルは思いました。しかし地理も分からず途方に暮れていたのでキスカの申し出は悪いことではありません。
それに半ば無理矢理連れてこられたのです。少しくらい楽しんでもバチは当たるまい、と心のなかで院長に言います。
「じゃあ、お願いしようかな。
まだ自己紹介してなかったね。僕はアル・レイクナー。アルでいいよ」
「アタシはキスカ・アイクマン。歳は16。よろしくね」
「え、年上?」
「今まで年下か同じと思ってたの?」
「あははは......」
確かに身長はアルより少し高いですが。はいそうです、などと言えるはずもなくアルは乾いた笑いをこぼすだけでした。
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