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◇
東京、松濤にある松濤第二学園の教室。
殆どの生徒が教室を出て行ってしまい、残って居るのはごく少数。
下校の鐘が鳴っているが今一つ頭がボーっとしてしまい席を立とうとしない。
「龍之介君、帰らないの?」
不思議に思ったショートボブの同級生、佐伯冴子が声を掛けて来る。
ちょっと控えめな性格の彼女だが、男は争うくらいが丁度良いと思っているらしく、時々煽るようなことを言ってくる。
「ん、ああ、冴子か。俺はどうして座ってるんだろうな」
どうしてと聞かれても困る。それを知っているのは質問をしている本人だけなのだから。
詰襟の学生服、至って普通の男子学生。
短髪でスポーツをしている体つき、この括りでいけば束で当てはまってしまう。
「いつから教室とお別れするのがそんなに寂しくなったのかしらね」
きっと冗談なんだろうと笑顔でそう返した。
ただのクラスメイトではない、彼女というわけでもないが、仲の良い友人同士だ。
二年間共に学び、遊び、多くの時間を共有してきている。
「そんなに勤勉じゃあないんだけどな」
荷物をまとめてようやく立ち上がる。隣に立つ冴子より五百ミリのペットボトル一本分は背が高い。
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