1・島龍之介はてんせい者

2/21
284人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
◇    東京、松濤にある松濤第二学園の教室。  殆どの生徒が教室を出て行ってしまい、残って居るのはごく少数。  下校の鐘が鳴っているが今一つ頭がボーっとしてしまい席を立とうとしない。 「龍之介君、帰らないの?」  不思議に思ったショートボブの同級生、佐伯冴子が声を掛けて来る。    ちょっと控えめな性格の彼女だが、男は争うくらいが丁度良いと思っているらしく、時々煽るようなことを言ってくる。 「ん、ああ、冴子か。俺はどうして座ってるんだろうな」  どうしてと聞かれても困る。それを知っているのは質問をしている本人だけなのだから。  詰襟の学生服、至って普通の男子学生。  短髪でスポーツをしている体つき、この括りでいけば束で当てはまってしまう。 「いつから教室とお別れするのがそんなに寂しくなったのかしらね」  きっと冗談なんだろうと笑顔でそう返した。  ただのクラスメイトではない、彼女というわけでもないが、仲の良い友人同士だ。  二年間共に学び、遊び、多くの時間を共有してきている。 「そんなに勤勉じゃあないんだけどな」  荷物をまとめてようやく立ち上がる。隣に立つ冴子より五百ミリのペットボトル一本分は背が高い。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!