偽りの絆

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ある晩、部屋で一人で泣いた。 久しぶりに泣いた。 自分の生い立ちを恨めば良いのか。 弟達を救えない自分が情けないのか。 チャンスをものにできない自分が歯がゆいのか。 そもそも、努力していない。 タイプライターだって必要ないのかと触ってもいない。 俺って生きている価値…… コンコン… 初めてノックされたドアを見つめる。 誰にも会いたくない。 ガチャ… は?勝手に開けてきやがった。 「……泣いているのか? ここがそんなに辛いか?」 「オースティン……さん…」 さんを付け忘れるところだった。 「ふっ。本当に野良猫みたいな奴だな。」 失礼極まりない!と思うものの当たっている。 「俺にここにいる理由なんてないんだよな、近々出ていくよ」 「…止めはしない。 が、ススメもしない。 私も拾われたからな。野良猫同然だった。」 ……は?オースティンが?拾われた? どこからどうみても出来る執事だ。 「俺とは出来が違うだろ? 俺は無理だね、こんな毎日…」 「…そうか。 ではゲイル氏に伝えておく。」 心臓が撃たれたように痛む。 撃たれたことなんてないのに。 そう表現したくなるほど胸が苦しい。 「……くっ……」 何にも出来ない一週間だった。 なんの涙なんだろうか。 「…お前のこと、何も知らないんだ。 いつか教えてほしい」
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