彼が鳶から番犬になるまで

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  返す言葉が探せなくて、とりあえずお父さんに逃げる。   「……お父さん、生おかわり」 「僕も」 カウンターに肘をつき、ニコニコとこちらを見ている町田さんの顔が視界の端にある。 正面切って彼の顔を見る勇気がない。 「どう思う? あんなオッサン相手にするくらいなら、僕の方がマシじゃない?」 「……はあ」 「大体仕事は在宅だから、あ、スタジオにこもったりもするけど、まっすぐ帰るよ、僕。 不定休はお互い様だから、そこは目をつぶってもらうとして、収入も固定じゃないけど、それなりに稼ぐよ? 妥協するなら良い相手だと思わない?」 「……グイグイ来ますね」 「ほっとくと危ないからね、川崎さん、すぐ誰かについていきそうだから」 かなり頼りない人間に思われてますが、私から見ると、あなたの方が相当危なっかしいんですけど。 それでも、近年なかったドキドキが体を支配している。 「はいよ」 お父さんの声と共に、また凍ったジョッキが出てくる。 グビグビ。 許容量オーバーだけど、すかさずジョッキを傾けた。 いやぁ、今夜は冷えたビールが美味いわ。 暑くてたまらん。 「だから危なっかしいって言ってるのに」 呆れた声を聞きながら、枝豆を貪る。 出された焼鳥(もちろん塩)にかじりついて串から抜く。 熱々の焼鳥とキンキンのビール、幸せだ。 一人でも幸せだけど、今夜はもっと気分が良い。
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