彼が鳶から番犬になるまで

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  「番号とメアド教えて」 ぬぅぅん、だいぶ押せ押せですね。 おっとりはどこ行ったんですか。 傾けたジョッキを戻すこともできず、唇をビールで湿らせたまま、少し考えた。 「んーと、ですね」 「ん?」 「仮に私が妥協したとしてですよ、町田さんはそれで良いわけ? 相手が妥協だって解ってるのに、本気にはなれないでしょう? それともなに? お互いに妥協なら楽だって思ってるの?」 勢いよく飲みすぎたせいか、若干絡むような言い方になった。 いかんいかん、冷静になれ、私。 そんな絡み口調の私をものともせず、彼は楽しそうに答える。 「僕は妥協してるわけじゃないから。 それに川崎さんが妥協じゃなくて本気になるまで待てば良いわけじゃん? それくらいの時間は待てるよ、僕」 なんとまあ、「待て」が上手な番犬だこと。 その辺はおっとりなんですね。 「……惜しげもなく攻めてきますね」 「たまには良いでしょ、全力でアプローチされるのも」 町田さんがまたクスクスと笑う。 「……うん、悪くない」 正直に答えると、彼はふはっと吹き出した。 その息で、入院中に長くなった猫っ毛の前髪がふわりと浮く。 考えてみたら、柔らかそうな髪も好みだし(ただ、将来禿げるかもだけど)、ちらっと見てしまった上半身も良い感じだ。 顔だって別に嫌いじゃないし、若干理解不能な部分はあるけど、付き合ううちに解るかもしれない。 なるようになれ、だ。 遊ばれているとしても、私も妥協だし。 私は携帯を取り出した。
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